羅睺★計都

RAHU★KETU

 

打楽器独奏に依る二神

Two Gods for percussion solo

(2024)

 

 

 

 

平野 一郎:

 

HIRANO Ichirô :

 

羅睺(らごう)計都(けいと)

 

RAHUKETU

 

打楽器独奏に依る二神

 

Two Gods for Percussion Solo

 

 

この作品は打楽器奏者・杉原響平氏の委嘱に応え、20245月から6月にかけて作曲した。島根県出雲市にて展開するライフワーク《連作交響神樂》(全九部作)の第四番〈大穴牟遅(オホナムチ)〉・第五番〈鳥遊(トリノアソビ)〉が初演された2019年春に公演後の舞台裏にて「いつか委嘱を」とおずおず最初の申し出があり、コロナ禍を経た2023年神在月の第六番〈國譲(クニユズリ)〉初演直後にいよいよ本気の打診を受けるや、〈大穴牟遅〉での過剰なまでに剥き出しの生命力溢れるティンパニの記憶が蘇り、氏の内部に存ろう荒ぶる魂に導かれるまま着想、短くも激しい相互触発を経て一気呵成に書き上げた。そうして生まれてきたのは云わば天空に隠れたもうひとつのヲロチ伝説。

 

羅睺RAHUと計都KETUはインド神話に由来する一対の阿修羅(アスラ)神族の名前。元々一体の龍であったのが、神神の甘露アムリタを奪い呑み不死となるも大神ヴィシュヌの怒りを買って無残にも円盤状の武器チャクラムにてその身を真っ二つに斬られ、首頭は羅睺/胴尾は計都へと身を(やつ)日蝕月蝕惹き起こす暗黒の妖星あるいは彗星となったと謂う。

 

因みに羅睺と計都は古来の東洋占星術では九曜の内の二神に数えられ、その伝説は西洋占星術に於ける日月軌道の交点の呼称(昇交点:龍の首頭DragonHead/降交点:龍の胴尾DragonTail)にも受け継がれた。とりわけ本邦では陰陽道の八将神:黄幡神羅睺)/豹尾神計都)として現れ遂にはスサノヲノミコトとも習合した。

 

曲は、対照的な二つの楽章とそれを結ぶ道行(みちゆき)から成る。

 

第一楽章:羅睺(らごう) Toccata Ubriaco

 

7つの太鼓とシンバル類を核とする“酔っ払いの”トッカータ。アムリタの酔いから覚めるや己の首と胴が切られたことに慌てふためき手当たり次第にひん掴み投げ飛ばして七転八倒するアスラの身上。

 

道行 Paessaggio Interiore

 

内なる靄の遠近(をちこち)に去来する心象風景。

 

第二楽章: 計都(けいと) Ricercare Zigzagando

 

ニコフォンと11のロートトムを軸に展開する“千鳥足の”リチェルカーレ。痛い目みてのち今度こそ同じ(てつ)を踏むまいと周到に慎重に反逆の時を見計らうアスラ、じわじわと領分を拡大して遂には驚くべき復活を遂げる七転び八起きの物語。

 

 

 

というわけで当方初の打楽器ソロ曲は巧まずして反時代を窮めた360度マルチパーカッション極めつけの“一人神樂”となった。(平野一郎)