交響神樂 第一番〈國引(クニビキ)〉

SYMPHONIC KAGURA No.1 <KUNIBIKI>

 

(2016)

 

[ca 20 min.]

 



Introduction-Prologue

第一の國引・支豆支乃御埼
Stanza 1°-Ritornello 1°-Landscape*a

第二の國引・狭田之國
Stanza 2°-Ritornello 2°-Landscape*b


Interlude

第三の國引・闇見國
Stanza 3°-Ritornello 3°-Landscape*c

第四の國引・三穂乃埼
Stanza 4°-Ritornello 4°-Landscape*d


Climax-Epilogue-Coda

曲は大きく分けて上記七つの場面から成ります。太古の鳴動[Introduction]に揺り起こされた原初の言葉[Prologue]に幕を開け、四度に及ぶ國引の御業とその詞章[Stanza]、巨神の歩み[Ritornello]、寄せ結ばれるクニグニの情景[Landscape]が、一つまた一つと繰り広げられます。中央に横たわる永く静かな間奏[Interlude]は、二度の國引に草臥れて深い眠りに落ちた神が視る幾千年の夢でしょうか。これから生まれ来る子らの遥かな声に呼び覚まされて、神は重い躯と心を奮い立たせ、固唾を呑んで御業を見凝め次第に数益す群衆と共に、残る二つの國引を続けます。大事を成し遂げた神/民のおらび[Climax]が新たな天地に谺すると、しづしづと厳かに八雲歌[Epilogue]が発し、大らかに響き広がります[Coda]。

 

神のはじめの音霊(おとだま)の森へ!

〜交響神樂、事始め。〜

「八雲立つ」——神神の首都・出雲の春にて《連作交響神樂》の大プロジェクトが始まりました。交響神樂(こうきょうかぐら)とは、交響曲と神楽という東西二様の表現の結び目に顕われる、いわば未来の伝統芸術。その連作は、出雲國の神話・伝承・風土に基づく、管弦楽と声楽の為の日本流“我が祖国”。かつて彼方より渡来した雅楽・声明・琵琶・尺八・三味線がものの見事に変身を遂げいつしか此処に根付いたように、私達とその風土の音声(おんじょう)を明治舶来のオーケストラに宿して、借り物ではない、ほんとうの日本発の交響楽を未来と世界に放ちます。
 その事始めは國引神話=バリトン独唱、混声合唱、児童合唱と管弦楽の為の交響神樂・第一番〈國引(クニビキ)〉。主人公は原初の巨神・八束水臣津野命(ヤツカミヅオミヅヌノミコト)。大山には弓ヶ浜、三瓶山には長浜と、巨大な綱を国境の霊峰に結わえ、志羅紀乃三埼(しらきのみさき)(韓半島・新羅)を支豆支乃御埼(きづきのみさき)(杵築・日御碕)に、佐伎之國(さきのくに)(隠岐・島前)を狭田之國(さだのくに)(佐太)に、良波乃國(よなみのくに)(隠岐・島後)を闇見國(くらみのくに)(久良彌)に、都都乃三埼(つつのみさき)(能登半島・珠洲)を三穂乃埼(みほのさき)(美保・地蔵崎)に…四つの土地を「くにこくにこ(國来國来)」と引っ張って、劇しくも大らかに出雲國を産み結ぶ。神寂びた古の言葉に血潮みなぎる生命を吹き込み、はじめの神とその営みの光と影、笑いと嘆き、歓びと苦しみを辿りつつ、忘れられた神話のほんとうを今此処に甦らせる、鳴り響くもう一つの祭です。
 この度の初演では、考古学者・平野芳英氏と荒神谷博物館のご協力のもと、神庭荒神谷(かんばこうじんだに)遺跡出土(と同型)の銅鐸の響きが甦ります。更には古来秘伝の刀剣鍛冶で名高い姫路明珍(みょうちん)家・明珍敬三氏のご高配を賜り、出雲にも所縁深き玉鋼製の明珍火箸(みょうちんひばし)・明潤琴(みょうじゅんきん)の妙なる調べが導入されることとなりました。この場をお借りして篤く御礼申し上げます。
 現(うつつ)と幻、古(いにしえ)と今が響き交わす〈國引〉の世界。胸の内にて「くにこ、くーにこ!」と口ずさみながら、心震える音霊(おとだま)の森へ、さあご一緒に!

[委嘱]

 

出雲市芸術文化振興財団

 


[編成]

 

 Bariton solo

 

Mixed Chorus

(S/A/T/B)

 

Children's Voice


Picc.2/Fl.2/Ob.2/C-A/S-Cl/Cl.2/Bs-Cl/Bsn.2/C-Bsn
Hrn.6/Tpt.4/Tbn.3/Bs-Tba
Timp/Perc.4/Xyl[=Gls]
Hrp/Pf
Strings{14/12/10/8/6}


[演奏記録]

2017年3月20日 島根県出雲市 出雲市民会館大ホール

Cond:中井章徳 Orch:出雲の春フェスティバルオーケストラ

Br: 福島明也

Cho:出雲の春フェスティバルコーラス

 

 

(C)HIRANO Ichiro 2017