ヤポネシアの森から
From The Yaponesian Forests
4台のマリンバと2群の打楽器、6人の奏者の為の
for 6 players on 4 marimbas & 2 percussions
(2021)
この作品は「4台のマリンバと6人の奏者の為の作品を」という金沢芸術村の委嘱に応え、2021年秋に作曲した。
協働するマリンバ・アンサンブルmokoから伝えられた唯一の要望は「木の温もりが感じられること」。それを聞いて即座に、鬱蒼と木々を連ねた森としてのマリンバ、という心象が脳裏に浮かび、太古の森(艮ノ森/巽ノ森/坤ノ森/乾ノ森)とその中に息づく鳥や獣や虫や人、その間を行き来する精霊の気配が体内に蠢きだした。
一説には、遥かな昔、インドネシア【Indonesia】起源の原初の木琴=音階を成す木片を並べた楽器がインド洋を越えマダガスカルからアフリカに入ってマリンバと名付けられ、ラテンアメリカに渡りアングロアメリカを経て、現代日本で隆盛を誇る今日の姿になったという。
楽器に蔵された古く遠い記憶を呼び起こし、風土と時代の更なる触発を得て、木々の精霊と森の神神が愉しく遊び・厳かに祀る、もうひとつの日本=ヤポネシア※を舞台とした小さな架空世界を編もうと企てた。
曲は東西南北=春夏秋冬に凖えた4楽章と内蔵された4つのカデンツァ、導きとなる4つのリトルネロと結びのコーダから構成される。4マリンバと4奏者が円陣を成し万象移ろう一年を巡り奏でる中、結界の内・外ではパーカッション操る2奏者が太母(グレートマザー)/道化(トリックスター)となり、4つの森を彷徨いつつ虚実混淆の祀りを執行う、という遊び。
※ヤポネシア【Japonesia】とは、第2次世界大戦末期に南島に暮らし敗戦を迎えついに出撃しなかった元特攻隊長の作家・島尾敏雄氏の考案により20世紀中葉に生じた概念。地形・風土を表すものとしては千島から琉球弧に及ぶ広義の日本列島を指すと共に、太古よりこの地に棲んできた人々の民族的・文化的な多元性・多様性への志向と探求を象徴する語ともなっている。21世紀も5分の1を過ぎた昨今、ヤポネシア【Yaponesia】人の起源と成立を解明するべくヤポネシアゲノムの学術研究が本格的に開始されている。
[委嘱]
金沢市民芸術村
[初演]
2021年12月4日 金沢市民芸術村ホール 演奏:アンサンブルmoko