アマビヱ
AMABIYE
ヤポネシア民謡集 no.2
Japonesian Folk Songs no.2
for Vocal & Piano
(2020)
2021年5月コロナ禍さいしょの緊急事態宣言下、ある構想がにわかに動き出した。元特攻隊員の幻想作家・島尾敏雄がかつて提唱した、もうひとつの日本(列島)=ヤポネシアに響いたかも知れない(架空の)民謡集、がそれである。第一曲「犬ノ婿入リ」に続く第二曲がこの「アマビヱ」。朝まだき、肥後だかどこだかの穏やかな海、沿岸漁業の爺さんがのんびりと小舟を浮かべている。船べりを打つ柔らかな波音に混じって、何だか呼ばれたような気がしてふと函眼鏡から顔を上げると、はるか遠くの海原から朧げな光をまとった人とも鳥とも魚ともつかない不思議な生き物が、切れ切れに聞こえる微かな叫びか激しい呟きの声を上げながら近づいてくる。妖にして珍なる姿に怖がるべきか面白がっていいのかわからず爺さん呆然としていると、目の前でピタリと止まったそれは、やおら「ア・マ・ビ・ヱ」と名乗り(もしくはマジナイを唱えて)、また何するでもなく遥かな海へとすべるようにヒョウと去っていった。ひねもすのたりのたりかな。果たして疫病退散の御利益、ありやなしや。
[初演予定]
2021年3月19日 京都府宮津市・宮津会館 吉川真澄(Sop.)&水戸見弥子(Pf.)