龍を踏む者
DRAGON TREADERS
女声、エレクトリックギター、サキソフォン、コントラバスと打楽器の為の
秘祭
Occult Ritual
for Female Voice, Electric Guitar, Saxophone, Contrabass & Percussion
* * *
【序 Jo】
敷浪(シキナミ) Waves
跫(アシオト) Foot Falls
結界(ケッカヰ) Magic Barrier
【破 Ha】
媼(オウナ) Elderly Woman
陀羅尼節(ダラニブシ) Mantra Chant
古ノ踊(イニシヘノヲドリ) Old Dance
呼聲(ヨビゴヱ) Calling Voice
【間 Kan】
狂言(キャウゲン)・御託宣(ゴタクセン) Farce / Oracle
【急 Kyû】
魍魎行列(マウリャウギャウレツ) Halloween Parade
聾(ラウ) Deaf
鎮メ歌(シヅメウタ) Hushing Song
【結 Ketsu】
祭文奏上(サイモンサウジャウ) Prayer Offering
* * *
「あはははは、冗談、冗談。」 〜林光〈アメリカ・アメリカ〉(詞:佐藤信)
丹後半島北端部・経ヶ岬(きょうがみさき)とその周辺は、目眩く天然と古伝承に彩られた、丹後國の聖地である。そこには、かつて沖に暴れて海民達を恐れさせ、やがて文殊菩薩の調伏を経て鎮まったと謂う、或る龍の物語が伝わる。岬から海沿いの道を西へ巡り、丹後海人の故地・袖志(そでし)の浦を経て少し登ると、山手には海を望む墓石が並び、海手には千古の老松を生やす台地・文殊野が広がる。そのさなかに佇むのは清涼山・九品寺(くほんじ)。伝説の龍を鎮めた文殊菩薩を本尊と祀るこの古刹は、奥底知れぬ大洞穴を宿す玄武岩の絶壁に建つことから、一名・穴文殊堂(あなもんじゅどう)とも呼ばれる。毎年8月24日には、施餓鬼(せがき)供養の伝統行事・穴文殊祭が行われる。
地形「穴文殊」概要:
京丹後市丹後町尾和の海食崖に形成された高さ約10mの海食洞。(中略)海食洞の真上、海食崖上の海成段丘には、航空自衛隊分屯基地があり、またその横には、丹後三文殊の一つとして信仰を集める清涼山九品寺の本堂及び山門が現存する。(中略)海食洞は丹後半島の沿岸を中心に数多く見られるが、穴文殊の海食洞は規模の上で有数の立派なものである。2014年、Xバンドレーダーの施設が増築され、海からの景観が大きく損なわれた。〜『京都府レッドデータブック2015』
私はこの聖地の天然と伝承と現在の交点に立ち、生者と死者が入り交じる夢現の妄念の裡に、ふと、歪められた時空に開く奇妙な秘祭を幻視した。とある晴れやかな祭日、聖地を覆う異風の喧騒に、ふらりと訪れる不思議な媼(おうな)。呟くような陀羅尼の節、失われた古の踊。媼の発する託宣の声が空に閃くや、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の乱痴気騒ぎの直中に、龍が千年の葬列を率いて、忘れられた者/霊(モノ)どもを呼び起こす。大本(おおもと)開祖・出口ナヲ師の御筆先(おふでさき)に導かれた幻能〈穴文殊〉の巧まざる上演…。
この作品は、大先達・林光氏の奇作〈アメリカ・アメリカ〉(1976)への、私的曲解に基づく40年後の応答(レスポンス)であると同時に、様々な典型の踏襲・引用・諷喩で織り成した、我らが内なるアメリカとの対峙、であるかも知れない。狂言、狂言。
[初演]
2016年05月08日 東京オペラシティ・リサイタルホール
"アンサンブル・ノマド第56回定期演奏会"
F-V:吉川真澄 E-G:佐藤紀雄 Sax(S/T):鈴木広志 C-B:佐藤洋嗣 Perc:宮本典子