アナベル・リー
~E. A. ポーの詩に拠る物語歌(バラード)~
ANNABEL LEE
~Ballad on the Poem by E.A.POE~ [World Premiere]
(2018)
[ca.15min.]
「平家蟹」に続きこの作品もまた、「異人歴程」との関わりから生れ出たものである。というのも「異人
歴程」作曲のさなか、Celtic Love Song(ケルトの愛の歌)と名付けた第Ⅱ章の主要旋律が現れた時、それがいつかE.A.ポーの〈アナベル・リー〉の歌へと生れ変る、と予感していたのだ。詞章全編への作曲はこの夏秋。見事な韻律で仕立てられた六連からなるポーの英詩の行間に、とある地霊の気配を嗅ぎ取り、ギリシャ系英国人で建築史家のマヌエラ・アントニウ氏の協力を仰ぎつつ、(出雲とケルトに同じ幻を視たハーンに倣って、)異国の言霊【ことだま】の奥に隠れた音霊【おとだま】を掘り起こそうと試みた。声は朗読⇄朗唱⇄歌唱を行き来し、楽器がその領域を遠心的に広めるうち、言葉と音楽の間から歌物語が溢れ出す。
各連冒頭と詩のあらまし:
(i) It was many a nd many a year ago…
遥か古、海に面した王國に、乙女がひとり暮らしていた。その人の名はアナベル・リー。乙女の希いはただ一つ、僕を愛し、僕に愛される事だった。
(ii) She was a child and I was a child…
その海辺の王國で、僕は幼子、彼女も幼子、その愛は愛を越えた愛、遂には天国の天使たちに、妬まれ憎まれる程だった。
(iii) And this was the reason that, long ago…
それが理由で、海辺の王國に冷たい夜風が吹き荒び、僕のアナベル・リーを凍えさせた。ある日突然、貴き生まれの彼女の親戚たちが、僕から彼女を連れ去った。海辺の王國の海辺の墓に、そうして彼女を閉じ籠めたのだ。
(iv) The angels, not half so happy in Heaven…
天使たちは天国にいても、僕らほど幸せでなかったから、彼女と僕とを羨んだのだろう。そうだ!それこそがその理由だ。この海辺の國人みなが知る事。或る夜、雲から風が吹き降ろして、凍え殺してしまったのだ、僕の大切なアナベル・リーを。
(v) But our love it was stronger by far than the love…
でも僕らの愛はずっと強い。年上の人たちの愛よりも、賢しらな者たちの愛よりもずっと。天国の天使にも、海底の悪魔にも、決して引き裂く事は出来ない。僕の魂と、あの美しいアナベル・リーの魂を。
(vi) For the moon never beams without bringing me dreams…
だって月の光が射し込むごと、僕は美しいアナベル・リーを夢みる。星々が天に昇るごと、麗しいアナベル・リーの輝く瞳を見るのだから。そして夜ごと、僕は愛するアナベル・リーの傍らに横たわる。おお、いとしい人。僕の命、僕の花嫁その人の、海辺の王國の海辺の墓に。
[演奏記録]
2018年11月4日昼 神奈川県川崎市 川崎能楽堂 Sop:吉川真澄 Vn:ヤンネ舘野 Gt:ペトリ・クメラ
2018年11月4日夜 神奈川県川崎市 川崎能楽堂 Sop:吉川真澄 Vn:ヤンネ舘野 Gt:ペトリ・クメラ