邪宗門
JASHÛMON
-女声と映像、15楽器によるモノオペラ-
-Mono-Opera for FemaleVoice,Visual & 15 Instruments-
(2010)
[ca 110 min.]
ここ過ぎて曲節(メロデア)の悩みのむれに、
ここ過ぎて官能の愉樂のそのに、
ここ過ぎて神経のにがき魔睡に。
(北原白秋『邪宗門扉銘』)
* * *
〜新作〈邪宗門〉への覚書(ノオト)〜
詩聖・北原白秋(1885-1942)の邪宗門(ジャシュウモン)は、
南蛮趣味と西方憧憬に彩られた処女詩集。
そこには童謡風・小唄風・浪漫派風・象徴派風に至る多彩極まる詩が共存し、
舶来の文物への憧れが謳い上げられる一方で、
失われゆく日本の風土への郷愁と哀惜が滲み出してもいます。
テクストとその行間には、
ヴィオロン・ピアノ・フルウト等の西洋楽器や“キリシタン”の聖歌に混じって、
舞楽、三味線、祭囃子から野辺送りの鉦までが、多元的に交響しています。
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モノオペラ〈邪宗門〉は、
白秋詩32篇と間奏曲から成る、
33面の更紗眼鏡(カレイドスコープ)。
葛藤する近代日本の美しき象徴というべき絢爛たる詩空間に、
“声”と“音楽”、更には“映像”をもって分け入り、
アンビヴァレントな表現世界を軋み響かせようとする試み。
白秋の同時代、ヨーロッパを席巻した"東方憧憬(オリエンタリズム)”に準えて
“南蛮憧憬(オクシデンタリズム)”をキイワードとしつつ、
現在(コンテンポラリー)の視点から新たな光を照射し、
それらを越えた地平を望む、今日的表現として発信したいと希っています。
* * *
序・邪宗門扉銘(No.1)
I:魔睡
(No.2邪宗門秘曲/No.3室内庭園/No.4赤き僧正/
No.5赤き花の魔睡/No.6空に眞赤な/No.7接吻の時)
II:朱の伴奏
(No.8謀叛/No.9雨の日ぐらし/No.10序樂/No.11月の出/No.12狂人の音樂)
III:外光と印象
(No.13冷めがたの印象/No.14夕日のにほひ/No.15入り日の壁/No.16青き光)
間・阿蘭陀囃子(No.17)
IV:天艸雅歌
(No.18角を吹け/No.19ほのかなる蝋の火に/No.20汝にささぐ/
No.21ただ秘めよ/No.22鵠/No.23艫を抜けよ/No.24一●[※火篇に主])
V:青き花
(No.25青き花/No.26海邊の墓/No.27夕)
VI:古酒
(No.28解纜/No.29立秋/No.30あかき木の實/No.31柑子/No.32内陣)
畢・失くしつる(No.33)
(C)HIRANO Ichiro 2010
[編成]
Fe-Vo
Pf
4Vn/2Va/2Vc/Cb
Fl/Ob/Cl/Hrn/Tpt
[演奏記録]
2011年1月29日 京都市 青山音楽記念館バロックザール
2011年1月30日 大阪市 ザ・フェニックスホール
2013年2月22日 大阪市 いずみホール
[批評その他]
海岸の景色が美しい京都府丹後地方出身の作曲家・平野一郎さんは、私が最も心惹かれる若手作曲家の一人です。2011年1月に、彼のモノオペラ「邪宗門」の公演に参加した後、その音楽の素晴らしさが心をはなれず、是非とも新しい曲を書いていただきたいという思いが募り、この度作曲をお願いしました。一年前「邪宗門」のパート譜が届いた時、私は恐怖を覚えました。いつも現代音楽の演奏を自分の知識、能力をはるかに越えた何かと感じ、ためらい、しりごみする癖があります。平野さんは演奏者に対し細部にわたる多くの指示を書いていて、譜読みをするのに時間と労力が必要でした。しかし、この音のジャングルをクリアしたあと、それは何千年もの昔から響いていた音であることを発見した気持ちになりました。平野さんの曲を聴く、また演奏する時、深い海、はるか遠い空、夢の世界そして非現実的な世界へ運ばれるように感じます。
(ヤンネ舘野/2011-12年 "ヤンネ舘野&舘野泉デュオ・リサイタル 新たなる大樹へ" プログラム)
(C)HIRANO Ichiro 2011