伽羅奢
GRACIA
〜チェロとピアノに依る連禱〜
~Litany for V’Cello & Piano~
(2013)
[ca 17 min]
この作品は、細川忠興公・ガラシャ夫人生誕450年記念事業実行委員会の委嘱を受け、2013年の春から夏にかけて作曲しました。タイトルの“伽羅奢(ガラシヤ)”は、古記録にある細川ガラシャ夫人の万葉仮名風の当字に由来します。副題の“連禱(リタニ)”とは元来キリスト教の祈禱様式の一つで、短い祈りの対句を簡素な節に載せて、呼びかけと応え(Call & Response)として交互に唱えるものですが、今日では音楽形式の一種とも成っています。
“本能寺の変”の直後、丹後半島最奥の地・味土野に心ならずも幽閉され、失意と孤独の淵にキリシタン信仰への渇望を醸成させたという明智玉子。“関ヶ原の合戦”の直前、戦国の世の習いとキリシタンの教えの狭間に凄絶な最期を遂げた細川ガラシャ。丹後という古からの神佛の霊地に、異国の信仰と精神が降り立ち、明智玉子=細川ガラシャという一女性を依代(よりしろ)と見初めて、鬩(せめ)ぎ縺(もつ)れ合いながらも遂には土に根付いていく…その有様を響きの中に辿ろうとしました。玉子=ガラシャの彷徨える魂が、己を弔う連禱の声に呼び覚まされ、自らの歩んだ数奇な運命を追憶する…祈りの調べに導かれて、そんな不思議な音楽が生れ出て来たと感じています。
曲は、玉子が“伽羅奢”へと変成(へんじょう)するまでの出来事(エピソード)に準えた七つの場面(シーン)と一つの頂点(クライマックス)から成ります。悲しみの影と宿命の予感、失意の中の山野行、遥かなる戦火の兆(きざし)、味土野の森の呼子鳥(よぶこどり)、隠れ山里の童たち、静かなる決意の秋(とき)、迫りくる運命の跫(あしおと)、炎の中の変成と昇華…七つの場面はそれぞれ七音(レミファソラシド)を基音とする旋法世界を階梯の如く一段一段と上昇し、最初の音(レ)に戻ったところで頂点(クライマックス)に到ります。欧州渡来の教会旋法に拠る“哀歌”と日本古来の土着旋法に拠る“追分”、相異なる二様の音調の軋み/響きが劇(ドラマ)を成し、 “連禱”による前奏-間奏-後奏が、時空を渡る木霊(エコー)のように、その劇的物語を呼び出し・縁取り・包み込んで行きます。
[委嘱]
細川忠興公・ガラシャ夫人生誕450年記念事業実行委員会
[編成]
V'c/Piano
[演奏記録]
2013年11月15日 京都府宮津市 カトリック宮津教会
(V'c:天野 武子 Pf:堤 聡子)
2013年11月15日 京都府宮津市 宮津会館
(V'c:天野 武子 Pf:堤 聡子)
2014年06月26日 東京都品川区 ひらつかホール
(V'c:天野 武子 Pf:堤 聡子)
2014年07月12日 名古屋市中区 宗次ホール
(V'c:天野 武子 Pf:堤 聡子)
(C)HIRANO Ichiro 2013