交響神樂 第二番〈遠呂智(ヲロチ)〉
SYMPHONIC KAGURA No.2 <WOROCHI>
(2017)
[ca 18 min.]
鈍色の靄。
黄昏の地に光る河。
夜見の種族の夢の氾濫。
逐われし皇子の幻の王國。
(遠呂智・扉銘)
***
第二番は、声楽を伴わない純粋な管弦楽曲。当方が出雲世界を“再発見”した頃の、チェロとピアノの為の「遠呂智」(2005)を母胎として生まれました。出雲神楽・石見神楽をはじめ様々な形で誰もが知る、あの八俣遠呂智(八岐大蛇/ヤマタノヲロチ)の物語です。流離(さすらい)の英雄が里人を苦しめる八頭一体の巨龍を退治、その尾に隠れた宝剣を奪って天に献上、助けた姫を娶(めと)って目出度し。「八雲立つ出雲八重垣妻籠みに八重垣作るその八重垣を」——古事記・日本書紀に描かれて出雲風土記にはついぞ現れぬ、須佐之男(素戔嗚/スサノヲ)様の大手柄…いや俟てよ、絵に画いたような勧善懲悪の筋書の隙間隙間にギラリと光る十六個の赤い眼と、逐(お)われし神の視(み)た真実はいったい何か?と、誰かが定めた“正しい神話”の後ろに隠れた、言葉では尽くせぬもう一つのほんとうに、音楽が迫ります。
第一楽章/序Jo
第二楽章/破Ha
第三楽章/急Kyû
曲の大枠は、典型的な序破急の構造。序は鳥髪山に降り立った零落の神の心に映る、いわば彷徨えるファンタジア。破はのたうつ怪物が迫り来る、いわば増殖のオスティナート。急は止め処なき死の舞踏、謂わば和製タランテラ。一見まともな形式の内側では、荒ぶる神のオモテ(面)とウラ(心)が鬩ぎ合い、現実と幻想の神楽が軋み合い、それらすべてが物語の進行を時に促し時に妨げ、組んず解れつ縺れながら、相矛盾する二つの結末——和和(にぎにぎ)しき大和的結末/荒荒(あらあら)しき出雲的結末——へと突き進みます。
[委嘱]
出雲市芸術文化振興財団
[編成]
Picc.2/Fl.2/Ob.2/C-A/S-Cl/Cl.2/Bs-Cl/Bsn.2/C-Bsn
Hrn.6/Tpt.4/Tbn.3/Bs-Tba
Timp/Perc.4/Xyl[=Gls]
Hrp/Pf
Strings{14/12/10/8/6}
[演奏記録]
2018年3月18日 島根県出雲市 大社文化プレイスうらら館
Cond:中井章徳 Orch:出雲の春フェスティバルオーケストラ