交響神樂 第四番〈大穴牟遅(オホナムチ)〉

SYMPHONIC KAGURA No.4 <ÔNAMUDJI>

 

(2018)

 

[ca 22 min.]

 

第四番の主人公はだいこくさま=オオクニヌシ。宍(猪)追って野山かけまわり、兄弟たちの嫉妬などお構いなし、天衣無縫のドン・ファンよろしく(?)恋を重ねる我らが若き日の英雄の、いわば音による遍歴譚=ビルドゥングスロマン。神話や神楽で描かれたお馴染みのエピソードの裏の裏まで潜り込み、縦横無尽のオーケストラが語りに騙るモノガタリ。この主人公はふつう思われているよりずっと曲者。しかつめらしい形式に封じ込められ祀り上げられるなど真っ平ゴメン!と自由気侭に跳ね廻った挙句、遂には物語の枠組まで蹴り破って飛び出します。


 序幕/呈示部 Prologue/Exposition
 第一景/展開部 I Scene 1°/Development I
 第二景/展開部 II Scene 2°/Development ll
 第三景/展開部 III Scene 3°/Development lll
 中断/音取 Interruption/Tuning
 第四景/展開部 IV Scene 4°/Development lV
 第五景/展開部 V Scene 5°/Development V
 終幕/再現部  Epilogue/Recapitulation


曲は、神楽の殻を破り出で、極度に膨張したソナタ形式に拠る、一種の交響詩。鑑賞の手引として、古い文学や標題楽の作法に則り、凡そ古事記の時系列に沿って、音楽が体現する物語のあらましを以下に記します。(でも本当は聴く人の中にひとりでに生じる物語こそ尊い。言葉は囮、響きは無尽蔵。)
【序幕:大穴牟遅命】野山を馳せて猪追い鹿狩るオホナムチ、旅先にてヤカミヒメに一目惚れし、気の赴くまま不器用な求愛の歌うたい、古いしきたり重んじるヤソガミ達の嫉妬を買う事。
【第一景:因幡の素兎】ヤソガミに重荷を負わされよろめき歩くオホナムチ、因幡の気多の岬にてふと傷ついた生き物に出遭い、皮を剥がれた素兎と知る事。兎族と鰐鮫族との競い合いの顛末を聞き、悄気かえる兎を秘術にて癒し、歓び跳ね回る兎からヤカミヒメとの恋愛成就を告げられる事。
【第二景:八十神の迫害】念願叶ってヤカミヒメの愛を得たオホナムチを懲らすべく、羨望に狂うヤソガミ達は謀って、赤く灼いた岩を大猪と偽り、オホナムチを唆して誘き出し、圧し潰し焼き殺す事。ウムガイヒメとキサガイヒメが鳥の姿で現れ、死せるオホナムチを母性の秘術にて癒し蘇生する事。
【第三景:根の國訪問】再び力を得たオホナムチ、スサノヲ統べる根の國に降り、大鼾かく大男の傍らにてスセリビメと出逢い語らい交わる事。気づいたスサノヲ、娘くるわす若者に忿怒、蛇・蜂・百足がたむろする室に案内、生弓矢・天詔琴を盗ってこっそり抜け出す二人を追い、遂には火責めにする事。命からがら逃げ果せたオホナムチとスセリビメに、怒り悲しむスサノヲは泣きながら餞の言葉を喚き贈る事。片や若い二人は睦まじく愛を語らう事。
【中断:語り部の小休止】このあとオホナムチの偉大なる業績である國作りの最初が縷々述べられる筈であるが、古事記では意外にも詳細が割愛され不明につき、やむをえず語り部ともども小休止、持ち帰った天詔琴の調べを整える事。
【第四景:彼方此方の妻問】スセリビメの目を盗んでは(?)彼方此方に妻問するオホナムチ、天詔琴にて調子良く伴奏する求愛の歌も自信満々、次第に図々しく太々しく鳴り響く事。ある日、夢の中に現れた北方の美しき姫に一目惚れする事。
【第五景:越の奴奈川姫】ヤチホコの神と称して徒党を組み越の國へと遠征に赴くオホナムチの眼は爛々、翡翠煌めく糸魚川渡って奴奈川姫と相聞歌を交わす事。大國・越を平定し強力なる覇王となったヤチホコの凱旋…とその夢の成就に酔うも束の間、怒る正妻スセリビメに烈しく叩き起こされる事。
【終幕:出雲への帰還/物語の終わり】越から戻ったオホナムチ、青垣しつらえ母理郷に蟄居し、語り部ともども、過ぎし日の冒険に想いを馳せる事。

[委嘱]

 

出雲市芸術文化振興財団

 


[編成]

 

Picc.2/Fl.2/Ob.2/C-A/S-Cl/Cl.2/Bs-Cl/Bsn.2/C-Bsn
Hrn.6/Tpt.4/Tbn.3/Bs-Tba
Timp/Perc.4/Xyl[=Gls]
Hrp/Pf
Strings{14/12/10/8/6}


[演奏記録]

2018年3月24日 島根県出雲市 出雲市文化会館

Cond:中井章徳 Orch:出雲の春フェスティバルオーケストラ