鱗宮交響曲

IROKONOMIYA-SYMPHONY

-for Orchestra-


(2009)



[ca 35min.]



 海原を行く籠舟

水泡に霞む朱の甍

海の呪いと青の葬礼

神代の終りと永遠の饗宴

* * * 

海幸山幸、浦嶋子から、平家入水に至るまで、
吾が列島の海と人々を巡る物語には、海中の別世界が様々に姿を変えて登場する。
そこは煌びやかな宮殿が立ち並ぶ永遠の楽土であると同時に、
異形往き交う黄昏の衢であり、地上を逐われた魂を封じ弔う奥津城でもある。

私はそれらの神話や伝説と、各地の海人の祭や歌に触発され、
列島の奥底に横たわる別世界を巡っての、もう一つの異界訪問譚を紡ごうと試みた。

曲は、訪問・滞在・帰還に準えた3章

[I:舟歌(フナウタ)II:挽歌(ヒキウタ)III:祝歌(ホキウタ)]と、
それらを導く3章[α:水面乃序樂/β:水中乃間樂/γ:水底乃式樂]から成る。
寄せ反す海潮のように、全ては一つの持続として、休むことなく演奏される。

α:水面乃序樂 Minamo no JOGAKU
I:舟歌(フナウタ) FUNA-UTA
β:水中乃間樂 Minaka no KANGAKU
II:挽歌(ヒキウタ) HIKI-UTA
γ:水底乃式樂 Minasoko no SHIKIGAKU
III:祝歌(ホキウタ) HOGI-UTA 

[α/β/γ]の3章は、三連画(トリプティク)として"完結"した[I/II/III]の神話世界へと、
今日の眼差しを注ぎ込む、いわば音による批評詩・・・であると同時に、
海に纏わる古今の音象徴が散り嵌められた回廊(プロムナード)。

異なる次元を成す6(3+3)章が多層的に照応しつつ、
互いに引用・参照・註釈することによって、
神話(古代)と批評詩(現代)を交響させ、
私たちのものとして"交響曲 sym-phony"を再生させよう、という企てでもある。 

芦屋交響楽団の委嘱に応え2008年から2009年にかけて作曲。
2010年5月15日大阪ザ・シンフォニーホールにおける

第73回芦屋交響楽団定期演奏会

(山下一史指揮)にて初演された。


 


[委嘱]

 

芦屋交響楽団

 


[編成]

Picc/Fl.3[=Picc/Al-Fl]/Ob.3/C-A/E♭-Cl/Cl.3[=Bs-Cl]/Bsn.3/C-Bsn
Hrn.6/Tpt.4/Tbn.3/Bs-Tba
Timp/Perc.4/Xyl/Gls
Hrp.2/Pf
Strings{16/14/12/10/8}



[初演]

2010年5月15日 大阪市 ザ・シンフォニー・ホール (Cond:山下一史 Orch:芦屋交響楽団)

 

(C)HIRANO Ichiro 2009